ジェイコム株誤発注の結末

年末大ボーナスを得た人もいるであろう誤発注事件。売買は現実の成立価格での約定を正式に認めておいて、決済は非常時特例として架空の成立価格での現金決済を適用というのがどうも釈然としない。


買い手は、株主議決権、配当受取権、好きなときに処分する自己決定権を得たはずだから、一方的に現金決済するのならそれらに対する弁済が必要ではないかと思う。少なくとも保有期間を合理的に見積もって逆日歩を払うなどすることが、キャピタル・ゲイン/ロスの他に必要ではないだろうか。


誤発注価格での売買を約定させ、その売買の真正性と権利確定を正式に認めるのなら、誤発注がなかったときの板で成立したであろう価格なんて何の意味もない。決済に問題があるのなら、決済で完結すべき。どうも決着の仕方に整合性がないように思える。


だが、金融システムの混乱を早期に収拾するためには仕方ないのかもしれない。ジェイコムは見えざる大株主に怯える日々を送っていたと思う。この問題が放置された場合、流通株式数が授権証券数を超えないか、(買い手が意図しないものの、現物不足でせざるを得ない預株の) 株主権の帰属先がどうなるか、など法的な問題について研究テーマを与えるかもしれない。


証券会社が得た利益は返還するとのことだが、真正売買で確定した課税対象となる利益をどうやって返還するのか。年末大ボーナスどころか、法務部・経理部などは決算期前に問題整理でおおわらわだろう。


与謝野金融担当相は「誤発注につけこむ証券会社は美しくない」と批判するが、誤発注かどうかは発注する側が確認するべき問題。利益獲得機会があれば積極的に取る姿勢は市場参加者として間違っていない。むしろ国内証券会社が取ったために返還への道が拓けたのであって、誤発注を放置していたら利益は海外に流れていたであろうという面もあることを見逃している。


今回は証券会社が自己勘定で取りにいったので批判を浴びたが、海外トラストをはさんだスキームをあらかじめ作っておけば、レピュテーション・リスクを被らずにこのようなエラーを拾えるのではないかという悪知恵が働いてしまう。というか、返還されない利益の一部は既にこのようなスキームに流れているかもしれない。