フジサンケイグループ vs ライブドア


どなたもご存じのとおり熱い闘いが繰り広げられている。


フジサンケイグループに対する所感

 新株予約権*1の第三者割当は、株主総会の特別決議がなければ商法第280条に反するのではないか?
 少なくとも株主価値を毀損する2点

   ・潜在株式増加による株式持分稀釈*2
   ・新規調達資本の資本コストを上回る事業収益率を稼得できるかどうか

 に対して説明責任を果たさなければ、株主代表訴訟は免れまい。


 森元首相は「金に飽かせば何でもできると思っている」と資本主義を否定する発言で、流通株式を資本市場で調達したライブドアを批判したが、大規模な
 資本注入で非関連者持分を大いに希釈するニッポン放送こそその批判に値する。
 フジサンケイグループは、時間外取引TOBもどきを仕掛けたライブドアの行為の違法性を指摘している。しかし、時間外といえど市場内取引である。
 売却者は自由意志でフジテレビジョンTOBよりライブドアへの売却を選んだのだ。当事者間の自由意志による流通株式の市場取引が株主持分利益
 (評価額)を侵さないのに対し、株主総会決議もなく第三者割当で資本注入することが株主持分利益(評価額)を侵すことを考えれば、ライブドアよりも
 フジサンケイグループの行為の違法性の方がはるかに高いことは明らかである。


 フジテレビジョンの提示するTOB価格を上回る株価を押し下げ、TOBを成功させるための稀釈だと捉えれば、TOB期間中の新株予約権発行
 は株価操縦として証券取引法違反も疑える。



ライブドアに対する所感

 ホリエモンは放送と通信の融合を主張するが、いまどきそんなことを主張すること自体、彼が実業を経験したことのない虚業家であることを証明しているように
 思える。放送と通信の融合 / コンテンツと通信インフラの事業シナジーなど、この5年ほど通信会社が手懸けてきていまだ芽がでてきていない鬼門*3である。
 もし、この夢に具現性が、そして市場に実際のニーズがあるのならば、融合事業はすでに実現している。先鞭をつけている通信会社がレンタルビデオを VOD
 に置き換えているだろうし、ブロードバンドを利用してインターネット放送局が乱立しているであろう。彼の主張はまったく具体性のないスローガンでしかない。


 また、ここまで被買収側と敵対してしまうと、ニッポン放送の株式の過半数を奪い法人というハコを手に入れたところで、放送のノウハウやコンテンツは流出
 してしまうだろう。フジサンケイグループニッポン放送の代わりとなる新たなラジオ局を設立し、そこにニッポン放送を辞める経営陣や社員を呼び込めば、
 新しいニッポン放送ができる。ライブドアが手にするのは投資価値のない抜け殻でしかない。*4


 さらに、これを仕掛けるための資金調達を、潜在株式を増加させ株価を押し下げる大きな要因である転換社債に頼ったことは、これまでの時価総額経営は
 もはや継続できないであろうという経営方針上のリスクを抱えてしまったことを意味するのではないか。


 ライブドアは、事業面、投資面、財務面、すなわちキャッシュフローのすべての面で、失敗を演じているように思える。



まとめ
 フジサンケイグループの行為は違法性がきわめて高い。しかしライブドアの買収が成功しても得るものは少ない。
 試合に勝つのはライブドア、勝負に勝つのはフジサンケイグループといえよう。


 いずれにせよ、両者とも営業キャッシュフローをまったく生まないことに資本を膨らませてしまって、価値が薄まること甚だしい。
 相手に呑まれまいとしてフグのように身体を大きく膨らませるチキンレース。一般株主には本当にいい迷惑だろう。

*1:ニッポン放送新株予約権ライブドア転換社債も、行使時に資本金に振替えられる債務勘定である。
    両者とも同等の資本調達政策だが、ニッポン放送は敵対する筆頭株主ライブドアの意向を無視して進めている点に問題がある。

*2:2.4倍にも稀釈する(潜在)株式発行を授権株式数内で行えるのであろうか? 授権株式数の改定が必要なら、それこそ株主総会決議が不可欠である。

*3:私の勤める企業グループでもこの手の事業部門をスピンアウトして創った会社を整理している。

*4:買収されたら多額の退職金を手に降りると予め定款で定めておく手法をゴールデンパラシュートというらしい。