東京地裁仮処分

備忘録。きわめて妥当な判断。

<11日の東京地裁決定 1>仮処分命令の要旨
 平成17年(ヨ)第20021号 新株予約権発行差止仮処分命令申立事件


 決定の要旨


債権者 株式会社ライブドア


債務者 株式会社ニッポン放送


 上記当事者間の頭書事件につき、当裁判所は、債権者が本決定の送達を受けた日から5日以内に、債務者のために金5億円の担保を立てることを保全執行の実施の条件として、次のとおり決定する。


主文の要旨


 債務者が平成17年2月23日の取締役会決議に基づいて現に手続中の新株予約権4720個の発行を仮に差し止める。


理由の要旨


1 「特ニ有利ナル条件」(商法280条ノ21第1項)による新株予約権の発行といえるか。


 新株予約権の有利発行にあたるかどうかは、オプション評価理論に基づいて算出された新株予約権の発行時点における価額(公正な発行価格)と取締役会において決定された発行価額とを比較して判断することになる。本件発行価額の算出方法について明らかに不合理な点は認められないから、本件新株予約権の発行が「特ニ有利ナル条件」による発行であるとまでいうことはできない。


2 「著シク不公正ナル方法」(商法280条ノ39第4項、280条ノ10)による新株予約権発行といえるか。


 不公正発行とは、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合をいい、株式会社においてその支配権につき争いがあり、従来の株主の持株比率に重大な影響を及ぼすような数の新株予約権が発行され、それが第三者に割り当てられる場合に、その新株予約権発行が支配権を争う特定の株主の持株比率を低下させ、現経営陣の支配権を維持することを主要な目的としてされたものであるときは、会社ひいては株主全体の利益の保護という観点からその新株予約権発行を正当化する特段の事情がない限り、不当な目的を達成する手段として新株予約権発行が利用される場合にあたるというべきである。債務者による新株予約権の発行は現在の取締役の地位保全を主たる目的とするものということはできないが、現経営陣と同様にフジサンケイグループに属する経営陣による支配権の維持を目的とするものであり、なお現経営陣の支配権を維持することを主たる目的とするものというべきである。


 これに対し、債務者は、本件新株予約権の発行は、債務者の企業価値の毀損を防ぎ、企業価値を維持・向上させ、また放送の公共性を確保するために行ったものであり、本件新株予約権の発行は正当なものであると主張している。特定の株主の支配権取得によりかかる利益が毀損される場合には、これを防止することを目的としてそのために相当な手段をとることが許される場合があるというべきであるが、現経営陣の支配権の維持を主たる目的とする新株予約権の発行が原則として許されないことからすると、企業価値の毀損防止のための手段として新株予約権の発行を正当化する特段の事情があるというためには、特定の株主の支配権取得により企業価値が著しく毀損されることが明らかであることを要すると解すべきである。そして本件では、債権者の支配権取得により債務者の企業価値が著しく毀損されることが明らかであるとまでは認められない。


 また、債務者は、債権者が証券取引法に違反して債務者の株式を取得しており、その防衛として本件新株予約権を発行した旨を主張するが、債権者が証券取引法に違反していると認めることもできない。


 したがって、本件新株予約権の発行は、「著シク不公正ナル方法」による新株予約権発行であると認められる。


 平成17年3月11日


 東京地方裁判所民事第八部


 裁判長裁判官 鹿子木康


 裁判官 真鍋美穂子


 裁判官 大寄久