「Just In Time」考

昨日深夜ドキュメント番組を見た。(翌朝早いので前半しか見ずに寝たが ...)

NNNドキュメント’04
▽検証高速道路トラック事故…原因は働かせすぎ?息子を返して▽刑務所からの手紙

トラック運転手が引き起こした死亡事故のドキュメンタリー。
規制緩和で新規参入障壁が低くなったというサプライの変化、デフレ不況で荷が減少したというデマンドの変化のせいで、トラック運送業は過当競争に陥りコスト削減を強いられている。2交代制運転が1人運転になり、配送時間の短縮が求められ、トラック運転手に重くのしかかっている過労と時間のプレッシャーが事故の背景にはある。

事故が起こって3者 − 被害者、加害者のトラック運転手、過労を黙認して監督責任を問われる運送会社 − みな不幸である。番組の主題は「規制緩和が生む過当競争で増えるトラック事故をどう防ぐか」ということだろうと思う。(後半を見ていないので断定できないが。)

この論点は大いに議論すべきなのだが、この番組で私が気になったのは実はこの主題そのものではない。

私が注目したのは「荷主が倉庫・在庫を持たず」「荷が到着すると倉庫に入れずすぐに次の工程にまわす」ようになったために「荷主が配送時間に厳しくなった」「荷積み・荷下ろしは荷主の倉庫担当者ではなく、トラック運転手が引き受けることになった」ことがトラック運転手の過労の一因であると番組で紹介された点である。

指摘されているのは、製造業の潮流 Just In Time (JIT) 方式*1のことである。

荷主が不当な圧力で荷積み・荷下ろしをトラック運転手に負わせたのなら、事故につながる過労に対して道義的責任があるかもしれないが、おそらくは責任を問えるほどのことではないであろう。安価で正確な時刻に配送してもらいたいという荷主の要望は正当なものである。問われるべきは「製造業の物流・生産方式」ではなく「過当競争に陥らせた運送業規制緩和、およびその実現プロセスは適正・妥当であったかどうか」であろう。

しかし、JIT によるコスト削減は、もしかしたらトラック運転手が起こす死亡事故という外部性*2で成立しているのかもしれないという可能性には、たとえそれがラストストロー*3であるとしても、ERPコンサルタント*4である私は思いをめぐらさざるを得ないのである。

*1:製品製造に必要な素材を必要なときに必要なだけ調達することで、在庫の管理費や陳腐化を避ける物流・生産方式。時間にシビアな配送システムが必要となる。

*2:ミクロ経済学用語:本来は製品に反映されるべきコストが反映されず他者に転嫁されてしまう現象。環境対策を行わない工場からもたらされる公害など。

*3:最後の藁(わら):臨界を超えてしまう最後の小さなひと押し。またそのひと押しを原因を思い込む錯覚。重荷を背負うラクダの背中に藁を載せたところつぶれてしまったという故事より。藁が原因でラクダがつぶれたように見えるが、真の主原因は重荷である。

*4:コスト削減などの経営管理をERPというシステムを導入することで実現しましょうと顧客に提案する人