月6 税務会計A (勝島敏明先生)
今週のテーマは、コース・イントロダクション。
勝島先生は監査法人トーマツの元代表社員で公認会計士試験委員も務める方なのだが、江戸っ子なのか財務諸表を「ざいむしょしょう」と言う。その偉大さに似合わないかわいいおっちゃんキャラがツボにはまる。先学期の「監査論A」であまり出席しない聴講生だったにも関わらず憶えられてしまったため、今学期は公約どおりこの科目を履修登録。
月7 戦略的思考とコミュニケーション (川本裕子先生)
今週のテーマは、コミュニケーションの基本。
川本先生は元道路公団民営化推進委員 *1 。今回たまたま道路特定財源に関する日経新聞の社説を材料に議論することになったこととは関係がない。
水6 国際会計トピックス (高橋健一先生)
今週のテーマは、コース・イントロダクション。
高橋先生はあずさ監査法人の代表社員。履修登録者10名の静かなクラス。のーんとしたペースで淡々とすすむ。私の仕事に直接関連する講義ではないが、監査、組織再編、証券登録の実際が聞けて面白そうだと感じる。今日は早速、うわさに聞いていた「日本会計基準の盲点(=国際連結会計の抜け道)」と「Securities Act of 1933 の域外適用」について言及あり。前者は国際租税回避スキームに似ている。後者は国内法が国際条約と同格であるという米国の法体系に起因しているように思う。どちらも先学期履修科目「国際取引課税」で身に着けた思考法が理解を促す。
SEC の登録申請様式 Form F-1 と Form 20-F をレビューするのが、縛りの弱い来週までの宿題。
水7 応用コーポレート・ファイナンス (新井富雄先生)
今週のテーマは、ファイナンス理論の復習。
ファイナンス理論の根底にある本質をひとつひとつ確認するように進めていくすばらしい講義。実際、論点をひとつひとつ学生に質問して「確認」してゆく。
Payback Period, ARR (Accounting Rate of Return), NPV (Net Present Value), IRR (Internal Rate of Return), PI (Profitability Index) と評価指標を並べて、投資決定戦略の解説。予算制約がない場合は NPV が高い順に採用する、予算制約がある場合は基本的には線形計画法で解くが、プロジェクトに相互排他条件が付かない簡単なケースでは「IRR や PI が高い順に採用する」という簡便法が使えるとのこと。
分類して解法を示すというなかなか戦略的な解説なのだが、最後の簡便法に関してだけは疑問。予算制約がある場合は、排他条件の有無に関わらず、情報科学でいうナップサック問題だ。下手な Heuristic Search をすると局所最適解に陥り、真の最適解にたどり着かない。実務で使うような数プロジェクトしかない簡単なケースであっても局所最適解に陥いりうる。
例えば下表はレジュメの値を少しいじったものだが、簡便法で解くと IRR の高い順に C, E, D と採用して、初期投資 = 900, NPV = 52 としてしまう。最適解は C, E, A と採用して、初期投資 = 1000, NPV = 57 となる。簡便法では、小さいプロジェクトの方が収益率が高く出がちであるというトラップ *2 にひっかかってしまう。やはり線形計画法で解くのが正当であろう。
プロジェクト | 初期投資 | IRR | NPV |
---|---|---|---|
A | 500 | 11% | 20 |
B | 200 | 12% | 10 |
C | 300 | 18% | 25 |
D | 400 | 12% | 15 |
E | 200 | 15% | 12 |
金7 事業再生 (田作朋雄先生)
今週のテーマは、ターンアラウンド概論。
倒産とは何か、資金繰りとフリーキャッシュフロー、倒産5法 (民事再生法、会社更生法、破産法、商法-特別清算、商法-会社整理) と私的整理、MBO と LBO、DIP (Debtor-In-Process)、US Federal Code Chapter 11 - Bankruptcy、事業再生の視座、など倒産概論について。
Self-Fulfilling Prophecy *3 や Self-Destroying Prophecy *4 といった相関社会科学に対する考察もあり。実は私は、自己に対しては Self-Fulfilling の、他者に対しては Self-Destroying の Prophet である!
土3 アセット・プライシング (池田昌幸先生)
今週のテーマは、期待効用関数とリスクプレミアム。
「表が出るまで硬貨を投げ続け、n回目に初めて表が出たら2^n円を受取るくじの期待利得は?」という St. Petersburg Paradox に始まり、対数効用関数を与える Daniel Bernoulli のモデル、そして対数を打ち消す指数の期待利得を与える *5 Super St. Petersburg Paradox。テーゼ・アンチテーゼ・ジンテーゼと展開していく講義はとても考えさせられる。
Allais の逆説から現実の効用関数モデルを推察する行動ファイナンスもおもしろい。が、「行動ファイナンスが個人の効用関数を定義するのはよいが、価格決定理論は市場の均衡が重要であり、均衡にインプリケーションを与えなければファイナンス理論として意味がない」というのが、池田先生だけではなく野口先生の主張でもあった。個人の絶対価値ではなく、市場における相対(=総体?)で決まるのがプライシングの本質なのであろう。個々人の効用関数が総体としてどのように市場の効用関数を構成するか、研究トピックになるかもしれない。
きっと典型的なファイナンス研究科生には無味乾燥な数学の「基礎」理論と感じられる講義だと思うが、高校時代に代数学を徹底的に勉強した私には、実に経済学としてのインプリケーションに富んだ「応用」理論であると感じられる。ノーベル経済学賞のトピックが頻出するが、確かに理論的探究がしやすいおもしろい分野だと思う。
土5 ベンチャーキャピタル・マネジメント (秦信行先生)
今週のテーマは、ベンチャーの定義。
ビデオ鑑賞の予定が急遽キャンセル。場当たり的な授業になるかと思いきや、新規事業を興すには大企業よりベンチャーの方がふさわしいか、社内ベンチャー制度はなぜうまくいかないか、という議論を行い、なかなか方向性のある内容になる。社内ベンチャー制度の失敗例として我が社が挙がる。やはり有名なのか?
最近よく思うのは、組織は形成されるとDNAというものが備わるということ。過去の成功体験でできた思考方法やメンタリティがDNAとして備わり、新しい挑戦に対してはそれが最適となるとは限らないのに発現する。イトーヨーカドーが事業転換やブランド形成できないのは安売りDNAが抜けないためであるし、トヨタがレクサスを既存販売店に置かないのもDNAの支配力を排除するためだ。新しいコンテンツには新しいハコが要る。